1998年5月25日
1998年5月13日水曜日の朝、同じ出張生活をしているメンバーの1人からお金を盗まれてしまった。
いつもは、もちろん財布は貴重品なので身につけているのだが、やられたのは朝起きて洗面に行っているたった5〜10分の間であった。それも朝6時という早い時間帯に起こった出来事だった。
私は、かなりショックだった。金額は400Nu(1400円)と一見大したことないように見えるが、このお金でブータンでは1週間毎晩ビールと食事ができる物価の安さを考えれば、思ったより大きい。さらにそれよりも、今までずっと一緒にやってきて仲間と思って信じていたメンバーの行動であったことが、一番こたえた。
確かに一緒に行動していて、ブータン人の盗癖というものは日頃からよく感じていた。というのは、これまでにもニワトリ、ヤシの木、リンゴの木、野菜など、作業中や作業の帰りに盗っていくのはよく見ていた。これは、一種の習慣に近いものがある。
しかし今回のは、偶然その場にあったので持っていったということではなく、日頃から自分の行動パターンをよく観察されていて、その結果「いつも早朝の洗面の時だけ、日本人は財布を身につけていない」ということを、発見されていたのだ。
こんなふうに考えれば考えるほど頭に血がのぼり、この怒り誰かにぶつけないと気が済まないという状態になっていった。そして、この日食事係で朝早くから起きていた少年労働者を疑った。「さっきおまえが盗んだ金を返せ。おれはおまえが盗むのを見たんだ。さあ、早く返せ」と強く詰め寄った。彼も強く否定した。
1時間後、調査してくれたチームのメンバーによって、犯人は彼ではないことが明らかになった。別のメンバーが犯人だった。この瞬間、私は金を盗まれた被害者のはずが、彼に対しては加害者となってしまった。完全に私の早とちりだった。
「自分は彼にわびなければならない」と調査してくれたメンバーに話し、すぐ彼のところへ行き謝った。どんなに頭にきていても絶対やってはいけないパターンだった。彼は許してくれたが、きっと彼にとって、日本人に犯人あつかいされた今日の出来事は永遠に忘れることができないだろう。彼はさらに日本人がきらいになったにちがいない。
こんなことがあって、最近外見では日本人を尊敬しているように見えたブータン人も、そんなに心から尊敬していないな、とよく思うようになった。例えば、壁の向う側(私のいない場所)で現地語で日本人の悪口を話しているのを聞いたり、金を貸すのを断ると(なかなか返してくれないので)態度をコロッと変えたりされると「なんだ金のためだけに優しくされていたのか」と思ってしまうなど、24時間一緒に生活していると、そんな変なところまで見えてしまう。
やっぱり、どんなに貧乏であっても、世界中誰でも自分の民族が一番に決まっているし、プライドもあるものだ。ブータン人にとって日本人というのは、ただ金持ちなので外見上尊敬(親切)し油断(信用)させてお金を得る(援助してもらう、盗む)という構図で、無償援助から日常生活まで、思われているかもしれない。と考えてしまい、ちょっと頭が混乱した1週間だった。